追憶の中で
和歌山の里山取材。
十津川での大水害。おばちゃんも流された。
何度となく泊めてもらってた民宿も流された。
ようきた ようきた! はよ上がれ。
あんたがいつ来よるか いつ来よるか
まっとたんじゃ。さあ はよ上がれや。
おばちゃん また きたぜ。
流された民宿の崖には蛍ぶくろうが
一面に咲いていた。
なにもせんでも勝手に咲きよるよ。
偉いもんじゃ ほんま偉いもんじゃ。
おばちゃんの声が聞こえる。
咲き誇る蛍ぶくろうが涙で滲む。
おばちゃん 来年もくるから、
さよなら 言わんわな。
心の中で繰り返しながらシャッターを切る。
きっと昔から、悠久の時のながれ
毎年ここで咲き続け、だだ美しくしかし切ない。
僕の心が静かだが強く揺さぶられた一瞬。